CD制作・雑報特報#21〜『生きる』

「生きること」の実感を初めて持てたのは30代前半でした。それまでは、さほどの苦労もなく、ひょいひょいと人生を歩むことができていました。それは一般的には幸せなのかもしれませんが、アーティストとしてはどうだったのでしょうか。
あの時期、地べたを這うような想いを知ることで、ようやく「人」としての目が開いたように思います。そして、人を思いやることや人の痛みを知ることを、今までどれだけ無視してきたか、その現実を知りました。そんな心ない自分が、ずっと歌を歌っていたなんて…。
生きていれば、もれなく死が待っています。どんなに大切な人とも必ず別れの時が来る。それを受け入れながら日々を丁寧に生きてゆきたい、そう思っています。
アルバムの中では、シンプルで凛とした、仕上がりになりました。


『生きる』

生きてゆくことは 気持ちをテーブルにそっと置くこと
生きてゆくことは あなたへの想いを重ねること
生きてゆくことが 笑っている 歌を追い越し
生きてゆくことで まっさらな私がそこにいる
死んでしまうこと 夕日より綺麗に溶けて沈むこと
死んでしまいたい 地を這う想いを初めて知る
死んでしまっても 今宵でなければ悔いなどない
死んでしまっても 生きる大地に立てたのだから
生きてゆくことは 時のゆりかごで死に向かうこと
生きてゆくさきに すべての出会いとの別れが待つ
生きてゆくことは あなたとの別れを受け入れること
そして明日もまた テーブルを拭き気持ちを そっと置く